
非日常を求めて旅に出るとき、目的地までの“道のり”そのものが旅の満足度を左右することがあります。
今回ご紹介するのは、三重県・志摩市の英虞湾に浮かぶ小さな島「渡鹿野島(わたかのしま)」。そこへ渡るわずか3分の船旅が、まるで別世界へ誘うような期待感を与えてくれました。
そして島に降り立つと迎えてくれるのが、海に囲まれた静かな宿「福寿荘」。
温泉とサウナ、美食、そして釣りまで楽しめる“海のオールインワン宿泊体験”を、余すことなくお伝えします。
Contents
渡鹿野島へ渡る、3分間の小さな冒険
福寿荘へのアクセスは、志摩市の的矢湾にある船着場からスタートします。旅館の駐車場に車を停めたら、旅館専用の送迎船に乗船。エンジンがかかり、船がゆっくりと桟橋を離れると、目の前に広がるのは青く穏やかな湾と、ゆったりと浮かぶ渡鹿野島。
この船旅、わずか3分ほどと短いのですが、驚くほどの“旅感”があります。潮の香り、波の音、そして島が近づいてくるワクワク感。これこそが、陸続きの旅館では味わえない、福寿荘ならではの特別な演出だと感じました。
しかもこの船、10〜15分おきに頻繁に運航しているため、利便性は抜群。不便さを一切感じることなく、スムーズに“島時間”へと入っていけます。
島の玄関口「福寿荘」にチェックイン
船を降りてすぐ目の前に広がるのが、今回の宿「福寿荘」。
ロビーには大きな窓から海を臨む開放的な空間が広がり、チェックインを待つ間もすでに癒されている自分がいました。
館内は、どこか昭和の香りを残しつつも手入れが行き届いており、落ち着きのある佇まい。スタッフの方々の丁寧な対応も心地よく、特に外国籍(ベトナムやフィリピン)の中居さんたちは日本語も上手で、明るくフレンドリーな対応が印象的でした。こうした「人の温かさ」もまた、旅の満足度を高めてくれる大切な要素だと改めて実感します。
釣って、食べる!旅館の目の前で楽しむ気軽な釣り体験
福寿荘ならではの魅力のひとつが、宿の目の前で気軽に釣りが楽しめること。釣竿は1,500円でレンタル可能。手ぶらで訪れても、思い立ったらすぐに釣りが始められるのは嬉しいポイントです。
岸壁に腰掛け、海を眺めながら糸を垂らすひととき。時がゆっくりと流れる中、自然との対話を楽しむ贅沢な時間。釣果があるかどうかはさておき、この“釣る時間そのもの”が非日常の演出でもあります。
しかも、釣った魚は17時までに旅館へ持ち込めば、1匹200円で調理して翌朝の朝食に出してくれるという嬉しいサービス付き。自分で釣った魚が朝の食卓に並ぶなんて、子どもにも大人にも忘れられない体験になること間違いありません。
温泉とサウナで心身ともにリフレッシュ
さて、旅館ステイの醍醐味といえばやっぱり「温泉」です。
福寿荘には、1階と6階の2か所に温泉施設があります。1階の温泉には、露天風呂と2人用のサウナが併設。特にサウナ好きな私にとっては、この小ぢんまりとしたサウナが最高の癒しの時間となりました。
温度はやや高めで、2人までのスペースということもあり、静かにじっくりと自分と向き合うことができました。夜と朝の2回、しっかり“ととのう”時間を楽しませてもらいました。
6階の展望風呂からは英虞湾を一望でき、まるで海の上に浮かんでいるかのような気分に。朝焼けの時間帯には、柔らかな光に包まれながら湯に浸かることができ、まさに至福のひとときです。
海の幸を堪能する贅沢な夕食と朝食
福寿荘のもうひとつの魅力は、なんといっても「食」です。
夕食は、伊勢志摩の豊かな海が育んだ海の幸が中心の和会席。伊勢エビやアワビ、地魚のお造りなど、旬の素材を活かした繊細な料理がずらりと並びます。
特に印象的だったのは、焼き物のタイの塩焼きと、蒸しアワビ。タイはふっくらと焼き上げられ、旨味がぎゅっと凝縮されていて、食べ応え満点。アワビはやわらかく、潮の香りを含んだ濃厚な味わいに、思わずため息がこぼれました。
食事の席では、熟練の中居さんが丁寧に料理を説明してくださり、外国人スタッフの方々も笑顔を絶やさず気配りが行き届いていて、終始心地よい時間が流れていました。
そして朝食は、和洋のビュッフェスタイル。自分で釣った魚が並んでいるのを見つけたときは、思わず「おぉ」と声が出てしまいました。ふっくらと焼き上げられていて、格別の美味しさ。まさに“自分で釣って、自分で味わう”旅のご褒美でした。
宿の裏側にある「住み込みのリアル」
旅館の隣には、従業員の社員寮が併設されており、多くのスタッフが住み込みで働いているとのことでした。こうした「職住一体」の働き方が、この島での丁寧な接客や、スタッフ間の連携の良さに繋がっているのかもしれません。
近年では外国人スタッフの採用も進んでおり、異文化の中でも温かさを失わないホスピタリティが根付いていることが、福寿荘の“人の魅力”として表れているのだと感じました。
「非日常」を求める旅に、福寿荘という選択肢
旅行に求めるものは人それぞれですが、私にとっては「日常から離れた体験」が何よりの癒し。
福寿荘での滞在は、3分の船旅に始まり、海とふれあう釣り、心ほどける温泉とサウナ、そして伊勢志摩の豊かな海の幸に包まれた食体験まで、まさに五感を満たす非日常そのものでした。
小さな島に渡るというアプローチの特別感。けれど不便さは一切感じさせない、よく練られた導線とサービス。そして何より、そこに集まる“人のあたたかさ”がこの宿を唯一無二の場所にしていると感じました。

「日常を少し忘れたい」「海を見ながらぼーっとしたい」「サウナでととのいたい」そんな想いがふと芽生えたら、ぜひ三重・渡鹿野島の福寿荘を訪れてみてください。きっと、心がゆるむ“島時間”が待っています。